ポルトガル語
ポルトガル語は、主にポルトガルおよびブラジルで使われている言語である。俗ラテン語から発展して形成されたロマンス語の1つで、スペイン語などと共にインド・ヨーロッパ語族イタリック語派に属する。
スペインの作家セルバンテスはポルトガル語のことを「甘美な言語」と、ブラジルの詩人オラーヴォ・ビラックは「ラティウムの最後の、粗野で美しい花」と評している。
日本とポルトガル語
1543年(年代については諸説あり)、「鉄砲伝来」として記憶される種子島へのポルトガル人漂着という出来事が発生、ポルトガル人・ポルトガル語は、文献で確認できる範囲で、日本人が直接接した初のヨーロッパ人・ヨーロッパ言語となった。
以後、イエズス会によるキリシタン布教とマラッカ・マカオを相手とする南蛮貿易(主に近畿〜九州地方)においてポルトガル人が主要な役割を果たしたので、この時代に日本にはいった文物と共にポルトガル語起源の語彙が日本語に定着した。以下がその例である 。
- キリシタン関係:キリシタン、デウス(※ラテン語も同形)、バテレン、イルマン、クルス、日本人キリシタン名(小西行長の洗礼名アゴスティニョ、内藤如安、細川ガラシャ等)
- 衣服関係:合羽、襦袢、ボタン
- 食品・嗜好品:タバコ、パン、ボーロ、バッテラ、金平糖、ボーブラ(カボチャを指す一部地域の方言)
- その他:カルタ、トタン、ビードロ(現在でも「ビー玉」などの形で残っている)、バンコ(縁台を指す一部地域の方言)
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- 「タバコ」を語源とする日本人の名字「煙草谷(たばこだに)」が山口県周南市周辺に存在する。
欧州の言語に対して日本国内で編纂された最初の辞書は『日葡辞書』(にっぽじしょ)と呼ばれている。1603年に完成しており、ポルトガル語を通じて当時の日本語の発音を知ることもできる。日本語ポルトガル語辞書は日葡辞典と呼ばれることが多い。
1639年にポルトガル人追放令が出され、相前後して完成した鎖国体制において、日本人が接する主要なヨーロッパ人・ヨーロッパ言語はオランダ人・オランダ語に取って代わられた。明治以降も、日本人にとって重要なヨーロッパ言語は、近代化のモデルとした国々の言語(英語、フランス語、ドイツ語等)であり、近・現代の日本においてポルトガル語が占める位置は、クラシック音楽用語に影響を与えたイタリア語や、文学や社会思想・運動方面に影響を残したロシア語に比べても、相対的に低いものであったといわざるを得ない。まとまった数の日本人がポルトガル語と深く接する機会は、むしろ日本の外、ブラジルへの移民を通じてであったといえる。第二次世界大戦後も基本的に状況は変わらず、ポルトガル語起源の外来語も音楽関係(サンバ、ボサノヴァ、ファド等)他少数にとどまった。
日本および日本人とポルトガル語の関係を巡る状況が大きく変化するのは1980年代以降である。この時期から日系ブラジル人の「出稼ぎ」を機にブラジル国籍の人口が増加し(とくに1990年の出入国管理法改正がこの傾向を促進した)、2004年現在ブラジル国籍の外国人登録者数は286,557人に達している 。この数字を機械的にあてはめれば、現在の日本社会には、バイリンガルも含めたポルトガル語の使用者が30万人近く存在していることになり、先に述べた「南蛮・キリシタンの時代」以来の、ポルトガル語との濃密な接触の状況が発生しているといえる。これが日本社会の「多言語・多文化」状況や日本語そのものにどのような影響を与えるかは未知数であるが、今後の推移が注目される。特に、ブラジル系住民を多く抱える関東地方及び東海地方のいくつかの地方自治体では、既にポルトガル語は住民サービスに不可欠の言語の1つとなっている。
その他、Jリーグの発足等を機にサッカーが日本の国民的スポーツとして定着するに伴い、強豪国ブラジルのサッカーにまつわる単語(ボランチ、エラシコ等)が取り入れられ、またチーム名がポルトガル語を基にして命名される例が現れた(東京ヴェルディやジュビロ磐田等)。またサンバ・カポエイラ・ブラジリアン柔術を愛好する人やグループが日本国内で増えており、バトゥカーダ、パシスタ、ジンガ等の単語や、ブラジル料理であるシュハスコやフェジョアーダ等といった料理名なども知られつつある。
また、1992年に放送されたNHKの大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」では、宣教師ルイス・フロイスに扮したナレーターが、毎回のナレーションの締めくくりにポルトガル語で挨拶を行い、話題になった。
文法
- 名詞と形容詞は性数一致する。複数形は他の西ロマンス語と同様、語末に -s または -es をつける。ただし -al, el など l で終わるものは -l を -is に変え、 -ais, -eis などにするが、-il はその語末音節に強勢があれば -is, なければ -eis となる。また -ao は基本的に -oes になるが、-aes または -aos になるものもある。女性形はスペイン語と同様、男性形が -o に終わるものは -a に変え、子音で終わるものは -o をつける。-ao の女性形は -a か -ona となる。-es や -a などを付加した結果音節が増えた場合、単数形にあったアクセント記号はなくなることがある。綴字 m による鼻母音で終わる語は、-ns になる。
- ポルトガルでは2人称代名詞としての親称 tu(単数)と vos(複数)が残っているが、ブラジルでは3人称の活用になる voce(s) のみにほぼ代替されている。そのため、ブラジル式で勉強する場合、動詞の活用は各時制ごとに6つではなく4つ覚えればよい。ただし、2人称目的格の te は用いるなど、同じ相手に対して(文法上の)2人称と3人称の混同使用も見られる。また、ブラジル南部の移民はアルゼンチンなまりのためしばしば2人称単数代名詞として vos を用いる。
- 英語では be + 現在分詞で表現する現在進行形を、ブラジルでは estar + 現在分詞で表す。一方、ポルトガルでは estar a + 不定詞と言う。
- 例:Sandra esta cantando.(ブラジル)、Sandra esta a cantar.(ポルトガル)。意味はどちらも「サンドラは歌っている」
- ラテン語になかった接続法未来が存在する。(この時制は中世ガリシア語、中世スペイン語では使ったが、現在日常生活では使わない。)
- 例:Liguem-me quando voces chegarem a Franca.(きみたちがフランスに着いたら電話をしてくれ)
- 不定詞に人称語尾の付いた「人称不定詞」がある。規則動詞では接続法未来と同形である。
- 例:E natural ficarmos tristes apos a morte do nosso melhor amigo.(われわれの最良の友人の死をわれわれが悲しむのは当然です)
語彙
参考として、食べ物を表すポルトガル語とラテン語の単語を示す。順にポルトガル語、ラテン語、日本語である。
- agua aqua 水
- limao citreum レモン
- manteiga butyrum バター
- pao panis パン
- queijo caseus チーズ
- sal sal 塩
- vinho vinum ワイン
ポルトガル語もスペイン語と同様にアラビア語からの借用語はあるが、スペイン語に比べて少ない。レコンキスタが早期に完了したポルトガルではイスラム教徒の強制改宗や追放などもスペインより早く行われ、それに伴いアラビア語系の借用語も追放されていった。現在でもポルトガル人がスペイン人をさして「あいつ等スペイン人はモーロ人との混血だ」と優越感に浸ることがあるという(同様の感情は、アンダルシア、ムルシア人に対するスペインの他の地域の住民の反応に見られる)。